【昭和のテロップは紙だった】紙のテロップとは?

このブログや私のSNSを見てくださっているみなさんはもうご存知だと思いますが、私は昔、テレビのタイトルデザインという仕事をやっていました。タイトルデザインというのは簡単に言うと、テレビに出てくるテロップ(字幕スーパー)をつくる仕事です。テロップといえば今ではコンピューターのフォントを使ったものになっていますが、私が仕事を始めた当時は「紙」で出来ていました。

でも、そう言われても「紙?紙をどうやってテレビにうつしてたの?」と思いますよね。

私はこれまで自分のやってきた仕事について、なんの疑問も持たずに過ごしてきましたが、手書き文字を再開してみると、私が当たり前に思ってきたことが、実は意外と世の中の人には知られていないんだということに気づきました。あれ?これはもしかしたら、今のうちに書き残しておかないと、忘れ去られていくものなのかも…!と(笑)。

そういうわけで、これから昭和のテロップについて、私のわかる範囲で、なるべく簡単にわかりやすくお話していこうと思います。よろしければ、どうぞお付き合いください(^^)。

 

テロップとは

まずは、そもそもテロップ(字幕スーパー)ってどんなもの?ということについてです。Wikipediaによると、

テレビジョン技術におけるスーパーインポーズは「テロップ」とも呼ばれる。元々テロップ (Telop)とは「テレビジョン・オペーク・プロジェクター」(Television Opaque Projector = テレビ投射映写機)と呼ばれる装置の商標名で、これをCBSと共同開発したGRAY社の商標であったが後に一般名詞化された。

ということで、元は商標名だったんですね。ちょっとややこしいですが、要するにテレビ用の字幕スーパーのことをテロップと呼びます。商標が一般名詞化されたというのは、ホッチキス(ステープラー)みたいなことです。

テロップにもいろいろ種類がありますが、一番簡単なものでいうと、黒いバックに白い文字が書いてあるものになります。テロップを画面に合成した時、黒いところは消えてしまって、白いところ(文字)だけが画面に残るのです。これを「ルミナンスキー(luminance-key)」というんですが、くわしく書きはじめるとテレビ技術の話になってしまうので、ここでは省略します(興味のある方はググってみてください)。とりあえず黒は消えて(「ぬける」ともいう)白が画面に表示されると思ってもらえればオッケーです。これを今はデータ(デジタル)で、昔は紙(アナログ)で作っていたので、昔のテロップは紙だったのです。

 

紙テロップの作り方

黒地に白文字がテロップだと分かっていただいたところで、次は紙テロップの作り方についてです。昭和の紙テロップには、私が書いているような手書きのものと、写植といわれるものとの、大きく分けて2種類あったんですが、今回は手書きのテロップで説明します(写植についてはまた後日書くつもりです)。

手書きテロップは、黒いつや消し塗料を塗った「オペーク用紙」と呼ばれる厚紙に、白い絵の具(ポスターカラー等)で、筆を使って書いていきます。失敗したら黒の絵の具で消します。

手書きテロップの例

手書きテロップは、出来上がりが早いのが良いところです。手慣れた人だと、テロップ1枚にかかる時間は1~2分程度で、一日に150~300枚も書いたといいますから、まさに神業!私なんかは、ほんのちょっと書いただけで、目や肩が痛くなって集中力も無くなってしまいます(笑)。

ここで、なぜオペーク用紙と呼ぶのか?ということについて調べてみたのですが、オペークは辞書によると

【opaque [形]〈物質などが〉不透明な,光を通さない(⇔transparent)】

とあるので、厚くて黒く塗られた、光を通さない用紙ということなのか?また、テロップは前述の通り Television Opaque Projector の略なので、この中のオペークという言葉だけが残ったのか?いずれにしてもはっきりしたことはわかりませんでした。ですが、テロップのことをオペークカードと呼んでいる人もいたので、当時は一般的な呼び名だったのは確かなようです。ちなみに残念ながらオペーク用紙はもう作られていないので、私は代用品として黒の画用紙を使っています。

テロップの話に戻りましょう。サイズは、ヨコ12.5cm✕タテ10cmで、ハガキの長い辺を少し短くしたくらいの大きさです。そしてその紙の中に「セフティーゾーン(安全範囲)」と呼ばれる、ヨコ8cm✕タテ6cm(4対3)のさらに小さい枠を書き、その枠からはみ出さないように文字を書いていました(当時のテレビは、画面比率(アスペクト比)は4対3、これに対して今のテレビは16対9のワイドサイズになっています)。もし紙のテロップを直接見たら「こんなに小さいものがテレビに映っていたんだ!」と、驚かれる事でしょう。

先ほどの手書きテロップを手で持っているところです。サイズ感がわかっていただけるかと思います。

下の写真はオペーク(テロップ)制作用定規(画像は拾い物です)。薄くて透明なアクリル板で出来ていました。この内側が「セフティーゾーン(安全範囲)」です。私も持っていたのですが、残念ながら紛失してしまいました。これも今は生産されていないので、手に入れることはできません。

テレビ創世紀の頃、テレビ受像機はいろんなメーカーから様々な物が売られていました。当時のテレビはブラウン管で、四隅は丸く、端にいくほど曲がっていたので、画面の端っこの文字は歪んだり切れたりしてしまいます。

昔のテレビ受像機(松下電器広告より)

そこで、どこの家のどんなテレビでも、文字が切れずに映し出される範囲を「セフティーゾーン(安全範囲)」として、その内側に文字を書くようにしていたのです。

ちなみに私が仕事を始めた昭和61年頃は、もうテレビの性能も格段に良くなっていたのですが、まだまだ古いテレビで見ている視聴者もいるかもしれないので、セフティーゾーン(安全範囲)は必ず守るようにと言われていました。

 

テロップをオンエアする

さて、テロップが完成したら、1枚ずつテロップホルダーというものに入れていきます。

これがテロップホルダー。プラスチック製です(イサオ (@isao1965)さんより画像をお借りしました。これももう残っていないと思います)。

順番を間違えないように(放送事故になるので)ホルダーを「テロップ送出機」にセットして、あとはオンエアに合わせて1枚づつ送出していきます(生放送の場合)。ここまでが、テロップがオンエアされるまでの一連の流れです。

「テロップ送出機」というのは、簡単に言うとテロップ専用のテレビカメラです。撮影したテロップ画面をオンエア画面と合成すると、字幕のついた画面になります。

使い終わったテロップは、間違いのもとになる(放送事故につながる)ので、使い回しのもの以外はその場で捨てられていました。そのため、古いテロップは今ほとんど残っていないのです。先輩方の書かれた貴重な資料を捨ててしまったのですから、今思うと本当にもったいないことをしました。

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ここで、テロップについて、以前ツイッターで不思議に思っている方が結構おられたので、そのお話を。古い番組の録画などで、テロップが斜めになっているのをたまに見かけるけど、なぜなんだろう?というものです。これはテロップをホルダーに入れるときに、斜めになった事に気づかず、それがそのままオンエアされてしまったからなのです。生放送の時は急いでいるので、特にやってしまいがちでした。テロップは小さいので、ホルダーに入れた時はちょっとの斜めでも、テレビ画面で大写しになると、ものすごく斜めになって見えてしまいます。なので、ホルダーに入れるのにも細心の注意を払う必要がありました。今はデジタルなので、意図的にやらない限り、斜めになることはありません。

他にも、テロップを逆さまに入れてしまって天地が逆のままオンエアされたり、空のテロップホルダーがオンエアされたり…という笑えないようなこともあったようです(^_^;)。今では考えられないですが、人が手でやっていたからこそ、アナログならではのミスだなぁと思います(もちろんミスはいけません、笑)。

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紙のテロップの話、いかがでしたか?昭和のテレビの雰囲気を少しでも感じていただけたら嬉しいです。テレビタイトルデザインには、他にも色んな仕事があったので、これからも思い出しながら少しづつ書いていきたいと思っています。(古い話なので、記憶違いや間違いもあるかと思いますが、ご容赦ください)。