【昭和のテロップは紙だった】紙の提供テロップの話

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現在の提供テロップはロゴをデータ化して画面に表示していますが、昭和の提供テロップは、やはり紙で作られていました。今回は、当時の提供テロップについてお話していこうと思います。

 

提供(ていきょう)とは?

「提供テロップ」はみなさんよくご存じの、こんな感じのものです。

「この番組は、世界に躍進するネコタ工業の提供でお送りいたします。」というようなナレーションが入ったりします。

でも「提供テロップはいつもテレビで見てるけど、そもそも『提供』って何?」という疑問を持っている方もいるかもしれません。

テレビ局がテレビ番組を作るときには、製作費(お金)が必要です。お金を集める方法として、NHKは視聴者から「受信料」を払ってもらい、民放テレビは民間会社(スポンサー)からお金を「提供」してもらいます。「この番組にお金を出してくれているのはこの会社ですよ」というのを示すために出すのが「提供テロップ」です。NHKにはスポンサーがないので提供がありません。

 

紙の提供テロップの作り方

さてここからが本題、昭和の時代に使われていた「紙」の提供テロップの作り方についてお話していこうと思います。もしかしたら違う作り方をしているテレビ局もあるかもしれませんが、ここでは私が働いていたテレビ局での作り方を記していきます。

提供テロップを作るには、提供会社名の「ロゴ」が必要です。できるだけ綺麗な状態のロゴがあったほうがいいので、提供会社にお願いして「清刷り(きよずり)」というのを貰います(貴重なものなので「要返却」の場合もあり)。清刷りというのは会社のロゴを印刷したもので、主にチラシやパンフレットなどの版下(はんした)に使われていました。(いま検索しても画像がほとんど出てこなくて、もうすっかり忘れ去られたものになっているようです、汗)

清刷りを再現したものです。A4サイズぐらいの紙に大~小のロゴが綺麗に並べて印刷されていて、サイズが合えばこれを切ってそのまま印刷用の版下に貼って使ったりします。

 

ロゴの撮影・現像

清刷りが手元に届いたらロゴの撮影をします。私がいたテレビ局には、ロゴを撮影する接写用の35mm一眼レフカメラがありました。フィルムを入れて使うアナログカメラです。

フィルムは白黒のものを使いますが、一般的な白黒フィルムではなく、主に写真製版などに使われていた「リスフィルム」という特殊なものを使っていました。普通の白黒フィルムは、白(透明)から黒へのグラデーションができますが、「リスフィルム」は、白(透明)か黒かのどちらかにはっきり分かれるのが特徴です。

リスフィルムのネガ(イメージ)

リスフィルムは六つ切りか四つ切りサイズのシート状のものを、35mm1枚分の大きさにハサミで切って使います。

接写台にカメラを固定し、ロゴがファインダーの中で出来るだけ大きくなるようにサイズを決めてピントを合わせます。手振れしないようにタイマーで撮影します。

撮影が終わったら暗室で現像します。アナログ写真の現像と同じような作業です。

暗室は真っ暗で何も見えないので、セーフライトという赤いライトをつけて作業します。バットに現像液と定着液を入れて順に浸していきます。写植の時にも現像液と定着液を使いましたが、ここではリスフィルム専用のものを使います。

現像液に浸してしばらくすると、光が当たったところが黒くなって画像が浮かんできます。はっきりと画像が出たら定着液に浸します。すると白い乳剤が溶けて黒以外のところは透明になります。最後に綺麗に水洗いしたらネガの完成です。

 

ロゴの焼き付け

ネガができたら、それを使ってロゴを焼き付けていきます。ここでも先ほどと同じリスフィルムを、提供のサイズにハサミで切って使います。

引き伸ばし機に先ほど作ったネガを入れ、上下させながらサイズを決めます。暗室を閉め、リスフィルムを置くのですが、そのまま置くと動いてしまうのでガラス板で挟んでセットし、露光します。終わったらリスフィルムを取り出し、ネガの時と同じく現像、定着、水洗いして出来上がりです。

リスフィルムにロゴを焼き付けたもの(イメージ)

 

提供テロップを作る

ロゴのフィルムができたら、提供テロップのもととなるネガを作っていきます。これもあらかじめリスフィルムで作っておいた「提供(写植で作ったもの)」という文字が入っているフィルムを使います。テロップと同じ大きさです。

 

マス目の入った台紙にリスフィルムの上部をセロハンテープで張ります。めくっている画像で、透明のシートなのが分かっていただけるかと思います。

台紙のマス目に合わせて、ロゴのセンターや水平を確かめながらセロハンテープで慎重に貼ります。

 

これで提供テロップのネガができました。

あとは写植の時と同じく、印画紙と重ね合わせて露光、現像します。(白い紙は印画紙のイメージです)

最後にセフティー(安全範囲)で安全範囲に入っているか、定規でロゴが水平になっているかどうかを確かめ、大丈夫であれば提供テロップの完成となります。

 

なぜリスフィルムなのか

こんな感じで提供テロップを作っていたんですが、正直なところ、提供のもとになるロゴは、リスフィルムではなく、紙焼きで作ってもいいのです。ではなぜわざわざリスフィルムで作るのかというと、それは「保存がきくから」なのです。

紙焼きの場合、すこし時間が経つと紙が劣化して、変色したり反ったり破れたりします。でもリスフィルムならほとんど劣化しないので、一度使ったものをファイルにストックしておけば、長期間経ったあとも使うことができます。現像作業は時間がかかるものなので、使いまわしが出来ればそのぶん時間の短縮にもなり便利でした。

 

バランス調整が肝心

提供は1枚に1社だけのものや、2社、3社…というように、たくさんのロゴを入れるものもあります。1枚のテロップに何社入るかによってロゴのサイズを変えるので、サイズ違いをたくさんストックしていました。

2社以上の提供の場合は、ロゴの大小があると不公平になってしまうので、見た目が同じくらいになるようにサイズ調整します。

例えばこのように、ロゴの横幅を長い方に合わせてしまうと「NYAZDA」が大きく見えてしまいます。

ロゴの文字のサイズを合わせてしまうと「NYAZDA」が小さく見えてしまいます。

このくらいだと、2社がちょうどいいボリュームになりバランスが取れます。

各ロゴのバランスがよい4社提供の例(12ch 金曜スペシャルより)。各ロゴのサイズ感や行間の幅など、ロゴの数が多くなるほど、気を使うことが増えていきます。

こちらはサンテレビの5社提供。「提供」の文字が縦書きになっているのは初めて見ました。スポンサー名をなるべく大きくするための工夫だと思われます。マーク付きのロゴや筆文字などが混ざり合っていてバランスを取るのがとても難しいのですが、上手くレイアウトされています。

 

 

こちらは、ちょっとむかしの提供テロップです。

この画像は木曜スペシャル(日本テレビ系)からお借りしたものですが、この「全日空」のロゴのように、横幅の短いロゴを横幅の長いロゴに合わせて無理やり(?)文字間隔を空けてバランスを取っていたこともあったようです(1枚目の方が年代が古い)。本来ロゴは「勝手に改変してはいけない物」のはずですが、私が子供の頃はこのような提供テロップを結構見かけたように思います。あまり細かいことを言わない、おおらかな時代だったのかもしれません。

 

清刷りが無い!

最近はめっきり減ってしまいましたが、私が働いていた頃はスナックなどの個人のお店がスポンサーにたくさんついてくださっていました。でも大抵のお店には清刷りのようなものはありません。

お店のチラシとかだとまだ嬉しいのですが、それも無い、となると最後の手段は「名刺」でした。しかし当時の名刺のロゴは、サイズが小さくて印刷が甘く、ブレたり文字がつぶれたりしているのがほとんどで、修正しないと使えなかったのです。一度撮影して紙焼きで引き伸ばしたものを絵の具で修正、もう一度撮影してやっと完成…というぐあいで、ほとんど書き直しでした。名刺以外だと「マッチの箱」や「箸袋」、果ては「紙ナプキン」の緑色の薄ーい印刷のロゴなんていうのもあり、その度に書き直しのような修正をしていました(笑)。

 

写植をロゴにする

会社やお店によっては、決まったロゴがないことがあります。そういう場合は、ロゴの代わりに写植を使っていました。

画像は日本テレビのドラマからお借りしました。この「大塚グループ」は写植だと思われます。このように、有名な企業でも写植を使っていることがあります。

 

おわりに

紙の提供テロップの話、いかがでしたか?年末になると、正月用に物凄い量の提供テロップを作らなくてはいけなくて、一日中暗室に入っていたこともありました。でも写植もそうだったんですが、提供を作るのも今から思えば楽しかったです。リスフィルムを定着液に付けたときに、白い乳剤が溶けて透明になっていくのが面白くてずっと眺めていたのを思い出します。今では材料が販売終了になり、現像作業はできなくなってしまいました。改めて、貴重な経験をさせてもらっていたんだなぁと思います。ちなみに今回使用したリスフィルムなどの素材は、いま手に入る材料で再現したんですが、作ってる過程がすごく楽しかったです(笑)。

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